『ハートキャッチプリキュア!』第2話 「堪忍袋の緒が切れました!」に潜む罠


あの決め台詞、こーゆー使い方だったんかい。
本編ではまだブロッサムしか登場していませんが、Wikipediaの記事を見る限り、マリンにも「キレ台詞」があるようです。第2話Bパートでの決め台詞前後の流れは以下の通りです。
(えりかがひどい目に遭わされる)→おばあちゃんに励まされる→変身→ボコられる→お花死亡→「堪忍袋の緒が切れました!」→逆転
はい、まずいですね。
ぶっちゃけえりかよりお花が大事なんかいという問題ですが、根本的にはキレる前後で話が繋がってないのがまずい。
プリキュアシリーズで、「戦闘中にキレて逆転する」演出に力を入れていたのが、『Yes!プリキュア5』および『GoGo!』です。基本的な流れを以下に記します。
誰かの心が踏みにじられる→キレる→変身→ボコられる→敵が余計なことを言う→再度キレる(「絶対に許さない!」)→逆転
ハートキャッチプリキュア!』との一貫性の違いは明らかでしょう。『ふたりはプリキュア!SplashStar』以前のプリキュアシリーズでもピンチ→逆転の流れは当然あったのですが、逆転する理由の部分がおざなりでした。単なる戦い方のひらめきだったり。
『5』で重視されたのはそこで、ぼくは「逆転要素の提出」と呼んでいます。
プリキュアシリーズは勧善懲悪ものですから、「逆転要素」はプリキュアの正義であり、勝つべき理由です。それは当該エピソードでの「守るべき価値」を明示するものであり、シリーズを通して描かれるプリキュアの戦いの意味と接続し、個別エピソードとシリーズ全体を互いに裏打ちするものです。こうした大きな意味を持たせ、正義の味方としてのプリキュアを描くためには、変身時と逆転時の怒りの理由が、同じでなければいけないわけです。
決め台詞まで用意しているということで(悪を許せないというニュアンスが入っていないのに若干不安はあったものの)、随所でプリキュアシリーズの歴史を踏まえている『ハートキャッチ』は「逆転要素」にも力を入れてくれるものと思って痛ましたが、またしてもアテが外れたかっこうです。
恐らく、戦闘シーンがコメディタッチになったことが、こういう演出になっている理由です。毎回被害者が出るところといい、セーラームーンシリーズに似ています。これをプリキュア風のシリアスなトドメにもっていくためには、なんとかして空気を変える必要があるということでしょう。しかし、あまりにも無理がありすぎる。
確かに花を大切にするのは確かにつぼみの重要な要素で、第1話でもえりかと衝突することで強調されてはいます。(ちょっと軽く流しすぎた気もしますが。)しかし、「こころの大樹」の設定が示すとおり、つぼみが守るべき「花」とは草じゃなくて「心」であるはずです。だったら草を絡めるのは文芸面では邪魔以外のなにものでもありません。仮にあのキレキレの映像演出のために入れるとしても、つぼみの花への愛とえりかへの思いやりが一息に語られなければならない
つまり、あのシーンは、こんな感じのほうがよい。

「ああっ!」
はん! 花なんかがなんだっていうのさ。こいつのこころの花ももうすぐ枯れる。この世の全ての花は、枯れる運命なのさ!」
「……私は、一生懸命咲こうとするお花が大好きです。えりかさんの、こころの花も! それを枯らそうとするなんて……」
「堪忍袋の緒が切れました!」

かように話運びのパターンが破綻しているわけですが、それはデザトリアンの扱いにも現れています。初代のザケンナー以来定番となっている巨大雑魚モンスターですが、シリーズ過去作品では「なにかに悪のエネルギーが宿る」という形で生み出されていました。(デザインは、巨大化した「本体」に特有のシンボルが付いたもの。)
つまり、「本体」はとりつかれた被害者であり(ほとんどは物体ですが)、モンスターを動かす精神エネルギーが「悪」だったわけです。そのため、モンスターは容赦なくブッちめるが倒した後は浄化されるのがお約束で、プリキュアの必殺技も、単純な破壊光線からヒーリング的な演出へ、徐々に変化していきました。『フレッシュプリキュア!』のいわゆる「シュワシュワ〜」はその極地で、『ハートキャッチ』でも同様の演出が行われることになります。
それに対し、『ハートキャッチ』1話で登場したデザトリアンは、こころの花を抜かれた者=えりかのコンプレックスが物体に宿ったものです。従って、砂漠の使徒に操られてプリキュアと戦いはするものの(今のところ破壊活動はしていない)、その精神性において単純な「悪」とは呼べないものです。
わざわざそういう設定にしたからには、プリキュアは「本体」のみならず、デザトリアンの精神をも救おうとするのが自然でしょう。となれば、つぼみにはえりかの心を動かす言葉が期待されるわけです。
ところが、2話でブロッサムはデザトリアンを遠慮会釈なくボコボコにし(花を巻き添えにしたからという理由で!)、えりかになんの言葉もかけないままドカーンと「浄化」しちゃったんですねー。ありえねー。これでは、デザトリアンは倒す相手なのか救う相手なのかさっぱりわかりません。
このように、『ハートキャッチ』では決め台詞を活かす演出パターンが確立されていません。というか、そもそもそういったことは事前に考えられていなかったのじゃないかという気が。形だけなぞって本来の意味が失われた伝統芸能を見るようで、非常に悲しい今日このごろ。

まとめ

  • キレて逆転する前後で話が変わっちゃいけないよ
  • 逆転要素はプリキュアの正義を示す台詞にしてください
  • えりかちゃんがかわいそうだよッ!
  • こころの大樹の設定はなんのためにあるわけ?
  • デザトリアンになったえりかちゃんがかわいそうだよッ!
  • お約束は形だけなぞっても意味がないよ