『映画プリキュアオールスターズDX』〜ドラゴンボールと特撮とプリキュア史〜

近付いてきましたね劇場公開。それに伴ってワーナーマイカルで前作『映画プリキュアオールスターズ』のリバイバル上映があったので、行ってきましたよ。これがなかなか面白い映画で、例によって同人誌で詳しく検討してるんですが、せっかくなのでweb向けにまとめ直してみようかと。当時は翌年に第二弾があるとは夢にも思いませんでしたからねえ……。

スタッフは『フレッシュプリキュア!』組ではなく旧作組

『フレッシュ』放送中だったので当たり前ですが。
下記リストは、各作品全話における該当スタッフの担当本数。リスト中、『ふたりはプリキュア』=初代、『ふたりはプリキュアMaxHeart』=MH、『ふたりはプリキュアSplashStar』=SS、『Yes!プリキュア5』=5、『Yes!プリキュア5GoGo』=GoGo、『フレッシュプリキュア!』=フレッシュと略記。

監督:大塚隆史
MH演出2回 SS演出8回 5演出3回 GoGo演出5回 フレッシュ演出2回
脚本:村山功
SS脚本4回 5脚本9回 GoGo脚本8回
作画監督青山充
初代作監5回 MH作監6回 映画MH1作監 SS作監7回 5作監2回 GoGo作監8回 フレッシュ作監4回

主要スタッフの経歴を見ると、プリキュアシリーズの複数作品に参加しているものの、SS〜GoGo中心の陣容といえます。特に、脚本の村山功はその他の作品に参加しておらず、SSも相対的に少ないのです。これは、作品内容に如実に反映しているように思われます。

後ろに先輩、前に後輩、世代交代の要

オールスターズとは言え、『フレッシュ』放送中の時期ですので、全員横一列に並んでいるわけではありません。ここでは、初代〜5の先輩プリキュアからフレッシュへの継承という要素があります。
しかし、軸となるのは『プリキュア5』勢です。従って、この映画では「プリキュアとは何であるか」という過去への視点と、「『フレッシュ』は何を受け継ぐのか」という未来への視点が同居しています。
これは、「『プリキュア5』寄りのプリキュア史観とでも呼ぶべきものです。

ドラゴンボール的」か「特撮的」か

プリキュアシリーズでは『プリキュア5』が大きな転機となっています。人数が変わったこともそうですし、内容的にも様々な変化が見られます。
大ざっぱにまとめれば、初代〜『SplashStar』は「ドラゴンボール的」であり、『プリキュア5』は「特撮的」だといえます。これは、戦いをどう描くか、ということの違いです。
どう描くか、とは、文字通りどういったアクション描写を行うかということでもありますし、それによってもたらされる象徴的な意味合いの変化も含みます。
プリキュアのストーリーでは、少女の日常における身近な問題が描かれます。戦いを描くのは、そうした問題に対する取り組みの象徴的表現であり、それが卑近な、手の届く範囲の問題であるがゆえに、プリキュアの戦いはまさに「格闘」として表現されます。その「戦い」の部分に対してストーリーの面からどういった補強がなされるかということは、すなわち「少女の問題への取り組み」をどう捉えるかということにも繋がってきます。
ドラゴンボール的」プリキュアにおいては、戦いとは「力と力の衝突」です。そこでは、互いがいかに強いかが描かれ、戦いに望む「理由」は重要視されません。それゆえ、敵が日常への理不尽な侵入者であると同時に、プリキュアもまた理不尽な強者として、どう考えても逆転不可能な状況を力業で解決してゆきます。
それに対し、「特撮的」プリキュアにおいては、戦いとは「理と理の衝突」、すなわち「正義と悪の対決」となります。いや、『SplashStar』以前も「光と闇の対決」ではあったのですが、それは互いに互いの依って立つものをぶつける行為ではなかったのです。
正義が勝つのは正義だからであり、つまり戦いは「どちらの言い分が正しいか」という論戦に近い意味合いを持つことになります。己の理、相手の非を示すことによって戦いに勝ちうるのが「特撮的」プリキュアです。
大きな転換点は『プリキュア5』ですが、そこに至るまでにも段階的な変化が見られます。『ふたりはプリキュア!MaxHeart』ではシャイニールミナスが善悪の判断基準として機能したそうな雰囲気を醸し出していますし、『SplashStar』ではキュアブライトがライダーベルトを付けています。この流れの中に『フレッシュ』も位置しており、従って「特撮的」な性質をある程度継承するものとなっています。

ドラゴンボール」と「特撮」の対立

『オールスターズ』が非常に刺激的なのは、敵キャラクターが「ドラゴンボール的」、プリキュアが「特撮的」に描かれているところです。
フュージョンが、ネーミングからしてドラゴンボールを意識しているのは明らかでしょう。エネルギーの質ではなく量への意識、相手のエネルギーを吸収する能力、やたらビームを撃ち最後にはかめはめ波とあからさまなほど。
プリキュア側のストーリーは、『プリキュア5』勢、というかのぞみが核となっています。バラバラになった仲間たちの「大集合」というテーマを語るのはのぞみです。また、逆転のきっかけとなる未来への希望を語り合うシーンも、ミラクルライトも『プリキュア5』が元ネタ。ちなみに、前者は『プリキュア5』48話、後者は映画ですね。
従って、本来であれば「ドラゴンボール的」な初代〜『SplashStar』勢も、「特撮的」な「理と理との衝突」として戦うことになります。これは、『プリキュア5』を変節ではなく発展とする歴史観ともいえます。「『プリキュア5』寄り」というのはそういうことです。
ぼくは『プリキュア5』信者なのでウンウンと頷いていたわけですが、初代〜『SplashStar』のファンの方は怒ってもいいんじゃないですかね。

最も成功した『フレッシュプリキュア!

他のプリキュアとの違いを出す必要に駆られたためでしょうが、『フレッシュ』の3人について、本編では感じられなかった「どういう関係なのか」という観点があります。
冒頭、のぞみとラブの出会いから物語が始まるわけですが、同じ脳天気型リーダーでも、のぞみは周囲を引っ張っていきますが、ラブは周囲に支えられるという違いが見て取れます。
4組いる中で『フレッシュ』組の登場シーンもそう多くはりませんが、その中でも細かく情報が詰め込まれています。フュージョンとの2戦目で最も長く粘るベリーはケンカが強そうだとかですね。特に、動揺したピーチを励ますベリー・パインで、ピーチを見て話すベリーに対してフュージョンへの注意を怠らないパインという対比は非常に面白い。
時期的にパッションがいないわけですが、キャラ単体での魅力はともかく、パッションが絡むと話の破綻っぷりがすさまじいので、個人的には「パッションに壊される前の『フレッシュ』」という意味で懐かしい映画だったりもします。こういうのでよかったのに。
ちなみに、空前絶後にダンスの扱いが酷いですが、結局『フレッシュ』でダンスはなんの役割も果たしていなかったし果たしようもないので、そのあたりの見切りもすごいナーと改めて思ったり。

『オールスターズDX2』に向けて

脚本・村山功が続投なので、恐らくプリキュアシリーズに対する歴史観みたいなものはまた押し出してくるんじゃないかと思います。……作画が、作画だけはちょっと気になりますが、お祭り映画のわりにものすごくまともな作品なので、未見の方は予習としてどうぞ。