さあ『デストロイ アンド レボリューション』について話す仕事を始めようか。

森恒二の漫画には、イケてない主人公と、彼の憧れとなるイケメンが登場する。物語の大きな流れは、イケてない主人公がイケメンに並び立つための何かを獲得することにある。
同時に、イケメンの側にも、イケてない主人公が共感できる傷を描く。イケてない主人公とイケメンは相互に接近し、最後にイケメンは、イケてない主人公に「生きるための答え」を求める。ここにおいて、イケてない主人公は、イケメンと友達になるために必要な、自分が提供できる何かを獲得する。
イケてない主人公がイケメンと友達になることができて、物語は完結する。これが、『ホーリーランド』の物語である。イケてない主人公が、より広い読者に有効となる「生きるための答え」を示すことが『自殺島』の眼目であったが、物語構造自体は恐らく同様であろう。
自殺島』の連載は順調であるが、森恒二はそこに『ホーリーランド』を超えられない虞を感じたかもしれない。『自殺島』のイケてない主人公が立派なサヴァイヴァーと化した段階で、森は新連載『デストロイ アンド レボリューション』を投入する。
デストロイ アンド レボリューション』の、過去二作との大きな違いは、イケてない主人公とイケメンが、最初から友達になっていることである。それは、イケてない主人公が、イケメンに提供できる、「生きるための答え」を最初から持っていることを意味する。
すなわち、破壊と革命であり、そのための力である。大人によってカタにはめられ、可能性を奪われた少年のための、暴力という神である。この「生きるための答え」は、『ホーリーランド』に対する、醜悪なセルフ・パロディといえる。
ホーリーランド』においては、「同志」であるマサキと、「友達」であるシンイチ・ショウゴの間には、一線が引かれていた。互いに「答え」を求めるユウとマサキの関係は、シンイチを中心とした「無償の友情」とは、色合いを異にするものといえる。
物語上の役割の違い。マサキは、シリーズ全体のテーマを背負い、大きな転換点となるエピソードを担う。一方、各エピソード毎の展開はシンイチ・ショウゴとの関係に負う面が大きく、概ね、彼ら二人に関する救出か復讐でエピソードが成立している。
ホーリーランド』の一里塚的エピソードといえば、ユウの狂気を顕にする暴走編(5-6巻)、「神」の喪失と復活を描くタカ編(8巻)、結末への布石となるヨシト編(11-13巻)、もがきから癒しへの転換を思わせる伊沢過去編(13巻)、そしてラストバトルであろうか。
これらエピソードの前後を、シンイチ・ショウゴ絡みのエピソードが埋める。シンイチ・ショウゴエピソードで得た「疑問」や、それに対する「答え」をマサキエピソードで示すことで、『ホーリーランド』の物語は進行する。
自殺島』では、「生きるための答え」の重み付けを、イケてない主人公とイケメンの間にある特殊な絆に頼らないために、ほぼ全編が、シンイチ・ショウゴエピソード相当の、イケてない人たちの苦悶と友情で構成している。これだと、場面場面は盛り上がるが、全体的な進行が見えにくい。
で、『デストロイ アンド レボリューション』だが、恐らく、ほとんどの尺が、マサキエピソード相当の、イケメンとの問答に費やされると思われる。めっちゃ打ち切りが怖いのだが、大ヒット作『ホーリーランド』の次回作を無事成功させたことで、自信を得たのだろうか。
デストロイ アンド レボリューション』では、イケてない主人公とイケメンが、ユウ・シンイチ・ショウゴのトリオのように、共に苦悶し、無償の友情を築くのではないか。第一話で、いきなりイケメンへのコンプレックスをさっくり描いてしまうあたり、森はすでにそれを乗り越えたように思える。
自殺島』でも、イケメンの傷をあっさり描いてしまったし。むしろ、イケてない主人公の成長度に、イケメンが匹敵していない。提供すべき「生きるための答え」を得るために、10巻以上も苦しみ続けるほどの存在感を発揮していない。
ではむしろ、互いに「生きるための答え」を得て、友達となったイケてない主人公とイケメンが、共に社会/世界に対していかに折り合っていくのか、それを描くのが『デストロイ アンド レボリューション』の眼目ではないか。
凶暴な男の「生きるための答え」と、社会/世界との折り合いを描く上で、カギになる存在はなにか? それは、女であるように思える。『ホーリーランド』においても、ユウの想い人であり、マサキの妹であるマイは、暴力を理解しなかった。
自殺島』の最近の展開でも、リアルな生に向き合い始めた男たちに、女が迷いと悩みを与えている。『自殺島』が、「現代の若者」全員への「生きるための答え」を示すことを眼目とするならば、当然そこには女も含まれていなければならない。
一方で、『デストロイ アンド レボリューション』で描かれようとしている生は、明らかに「男の世界」である。ならば、どうしても女には理解されずに残ってしまう「男の浪漫」と、女を含む社会/世界との折り合いが、作品のテーマになるのではないだろうか。
愛する女を殺す、という結末も含めて。

ホーリーランド (1) (Jets comics (846))

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自殺島 1―サバイバル極限ドラマ (ジェッツコミックス)

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