倒錯社賞こぼれ話:気になった作品について書きたいことを書く

 いやいや、職場で休み時間にいっしょけんめ読んでたらこんな時期になってしまったw
 今回はレベル高くて選考でもえらい悩みました。結局推薦には至らなかったけど講評したい作品が多いので、とりあえず自分とこでやります。
 
3『弱点』・『付き合うとか付き合わないとか』
 第一回受賞者のtplusf氏、さすがに筆力は高いです。他作品と比べて特徴的なのが直接的な肉体の描写で、第一回も含めて、少女の肉体というものを唯一描いているのがこの人だと言っても過言ではありません。「ロフト」あるいは「狭い布団部屋」という閉鎖的な舞台設定もあり、実にエロい。ただ、これが萌えかというと首を捻るものがあり、出来は良いながら推薦は見送りました。
 
6『夏娘』
 ああ申し訳ない、またしても申し訳ない、でも俺には小説とイラストを同列に評価するのは無理っす! で、感想としては、要素をとりあえず詰め込んでみました感が拭えないですね。第一回の講評でも書きましたが、小説の中で競うのであれば絵の中に「文脈」を仕込むことが肝要と思います。シチュエーションとかストーリーですね。かわいい絵=萌える絵、では必ずしもありませんので、画力以外のところでも勝負していただきたい。
 
9『眠い日、暑い日』
 400文字というのはいかにも短い。その中で何を選択しどこに注力するのかが勝負の分かれ目になったようですが、この作品はヒロインの寝姿の描写に徹しています。これはそれなりの成功を収めたようで、制限以下の文字数ながら読ませますね。俺は犬かなと思ったんですけど、イヌミミ少女なような犬そのものなような、妖怪っぽい感じがしました。描写がしっかりしているので想像して単純に楽しい。
 
11『レイニィボーイ・シャイニィガール』
 雨男と晴れ女、二人の接触を通してそれぞれのキャラクターを描くのはうまい手です。これならことさらヒロインの説明をする必要はありませんね。
 ただ、主催の講評にもあるように、虹ネタをどうして入れなかったのかちょっとわかりませんね。安直過ぎるので避けたんでしょうか。あと気になったのが、ヒロインの一人相撲っぽいところです。つまり主人公にとってヒロインはどういう存在なのかということで、雨男と晴れ女の対比によってキャラクターを表現している以上そこは避けて通れないところだと思います。例えば男がネクラで女がネアカだったらわかりやすい。この場合は似たものカップルという感じで、あえて雨と晴れで対比する意味が見えにくいですね。
 
12『ワンサイドゲーム
 ホラー。「ごちそうさま」があまりにも絶妙でした。が、事が起こった後の姉の描写が薄い。この構成だと恋敵を始末するつもりで最愛の弟まで死なせてしまった姉の姿が萌えどころなはずなんですが、わりと冷静ですよね。抑制的な語り口には好感が持てますが、そこに力点を置けないのなら後半はカットして、自転車に仕掛けをする病みっぷりを一番に見せるべきでしょう。ぶっちゃけ、最後に後追い自殺くらいして欲しかったなーと。
 
16『無題(花火)』
 ほぼ会話のみの構成。通常この文字数では無駄口叩かせる余裕はないでしょうが、地の分をばっさりカットしたことでそれが可能になったようです。まったりしたテンポが心地良い。また、状況説明が全くなく、意図的なものかどうか、二人で年齢不祥な感じになっていますね。中学生から大学生くらいまで対応できそう。ただ二人の積み重ねてきた時間の長さが漠然と感じ取れる、そしてそれは漠然としか表現できない類のものでしょう。二人の成長を大河ドラマ風に追うんであればともかく、短編なのでこれでいいんだと思うんですね。
 ただし、そうであるがゆえに最後は余計です。かなり極端なシチュ萌え小説なので、下手にキャラ萌えに焦点を合わせると軸がぶれますね。そもそも男の子に感情移入させる必要もないでしょう。ラブラブであればそれでいい。俺なら、そうですね、「彼女の顔を花火が照らしていました。」とでもしますかね。
 
18『主人公がオオアリクイに(以下略)』
 アルェー、俺なんで萌えてんの? 気持ち悪い……でも萌えちゃう!
 えー、今回の投稿作の傾向とかに無理矢理かこつけますと、書かないという戦略ですよね。前回よりさらに厳しい制限の中で、あるべきものをあえて書かないことによって想像させる、あるいは書いた部分を強調するという手法が有効に働きました。この作品で言えば、ツラはアリクイ、体もアリクイ、行動すらもアリクイでありながら態度だけは可憐な幼なじみのそれであり、正しく幼なじみ的なアリクイの姿に俺はもっもっもっもっ萌えー! って、あれ? これはあくまでアリクイの姿をした幼なじみであって、幼なじみなアリクイではない、はず、あれ?
 
19『さした』
 これなんてNitro+(ウロブチ寄り)? 萌えません。燃えます。文体も不自然主義な展開も面白いけど、殺人拳法使いの妹に萌えられるかというとさすがに無理ですね。せっかくなんで、ベタベタな妹キャラかと思ったら突然ガキッガキッという感じにワンクッション置いたらいいんじゃないかと思います。
 
20『夏』
 味わい深いですね。頭一つ抜けて上手かった。二人の抑制的な好意に基く関係が心地良いです。ただし、関係の描写が先に立ってヒロイン自身がおざなりというか、ぶっちゃけ主人公のほうが魅力的というのはありました。
 妹の主人公への健気な想いもよく読めば汲み取れるように書いてはあるんですが(わざわざ近くの大学を選んだのかなー、とか)、もっと安直に書いてくれたほうが親切ということもあります。普段なかなか会えないお兄ちゃんに誘われてごきげんな妹、くらいの描写をしてもバチは当たらんと思いますよ。