『おジャ魔女どれみ』化した『ハートキャッチプリキュア!』は、それでもちゃんとプリキュアになれる

プリキュア」は、主人公の年齢が「どれみ」よりも高く設定してあることからわかるように、
視聴者の女の子が持つ、年上のお姉さんに対する憧れの心を狙い撃ちしている。
だから、あえて「どれみ」のかわいいデザインを避けていた。
それが今回、HCプリキュアでは、年齢こそ保っているが、肝心の見た目は「どれみ」だ。
これは誰でもひと目でわかる大きな違いで、重要なポイントになる。

これは極めて重要な視点です。プリキュアに限らず、『美少女戦士セーラームーン』に始まる変身ヒロインものの殆どは、主人公の年齢設定が、メインターゲットとなる小学生くらいまでの女児よりも上です。また、キャラクターデザインも大人っぽくなっている。それは確かに、「憧れのお姉さん」としてのデザインだ。
……ただ、それならなんで変身する必要があるのかって話で。

変身ヒロインのフィロソフィー

セーラームーンの主人公・月野うさぎは、劣等生です。実はこれがフォロワーにあまり理解されなかった点なのですが、変身願望の担い手である主人公は、ダメであるべきなんです。最初から優れているのではなく、変身することによって理想像を体現する主人公こそが必要とされるわけです。
これは、あらかじめ理想化された世界における理想的少女像である、魔女っ子とは異なるところですね。
そして、セーラームーンの変身は、コスメグッズを模した変身アイテムで「メイク・アップ」することによって行われる。これは、化粧の持つ魔力を表現すると同時に、まだ化粧が許されない子供の憧れをも示しています。化粧によって誕生するセーラームーンは、「大人のオンナ」になったうさぎの姿です。これは、クイーンセレニティの存在によって、設定面でも裏打ちされている。
年上の衛(原作では高校生・アニメでは大学生)と付き合っているうさぎ自身が、ある種の理想像を体現していることはいうまでもありませんが、それでも、変身前=子供、変身後=大人という対比構図があることは事実です。
魔女っ子と変身ヒロインの中間的な作品である『姫ちゃんのリボン』でしばしば「職業コスプレ」が見られたり、変身ヒロインのサブジャンルである少女怪盗(『怪盗セイント・テール』など)が夜に活動するのも同じ理由によるものです。「お仕事」や「夜」という「大人の世界」に入るために、変身が必要とされるわけです。
では、変身前=子供、変身後=大人というギャップがなにを生み出すのかといえば、それは成長です。変身によって一足早く大人になった自分を体験することで、成長のイメージ・エネルギーを得ることが、変身ヒロインの象徴的な意味です。
ゆえに、変身ヒロインの成長とは、強くなることではなく大人になることです。恋愛の成就によって表現されることが多いですね。
となると、問題は、変身前後のどちらに「絵柄年齢」を合わせるかということになります。『セーラームーン』を始め、多くの変身ヒロインものは変身後=大人に合わせており、プリキュアシリーズも例外ではありません。
『ハートキャッチ』は、この絵柄ですから、変身したプリキュアも見た目は子供です。そこで、憧れの対象として、大人のビジュアルイメージが別に必要となります。つまり、キュアムーンライトがその役割を果たしているわけです。彼女は、『ハートキャッチ』が変身ヒロインものとして成立する上で必須のパーツといえます。
過去記事で述べましたが、ブロッサム・マリンの変身中にあるドレス姿は、ムーンライトのそれと同じです。つまり、ムーンライトのイメージを借りることで、ブロッサム・マリンもまた、「大人」の姿として成立していることになります。これは、従来的な変身ヒロインのデザインと比べても、物語との良好な相乗効果が期待できます。

まとめ

オモチャは売れないかもナー。