『戦国妖狐』〜人生50年の奴と、千年の奴の間にあるギャップ〜

1巻の表紙を見てスルーした俺の判断は間違っていなかった。1・2巻まるまるプロローグで、3巻からが本番。つまりクソ面白い。
それは売り物としてどうかとは思うのだが。
あと、スーパー水上悟志大戦。設定は散人左道、キャラクターは惑星のさみだれ、みたいな。灼岩ちゃんはタローに似てるな、と思った。どう見てもマイマクテリオンな人が圧倒的にマイマクテリオン。あと山の神ちょう可愛い。押し倒したい。
惑星のさみだれは大人になることの話で、散人左道とかぴよぴよもまあそんなような話だった。失われるものと受け継いでゆくもの、とか。サイコスタッフは人生のうち思春期だけを切り取った話みたいな。ようするに人生を描いていて、人生は限りあるからこそ人生たりうるのだが……。
永い時を生きる魂のありようを描いたのが、水上悟志唯一の絶版作品、エンジェルお悩み相談所だったりするわけだ。散人左道や連作短編・百鬼町シリーズでは、限られた時の人間と、永遠の時の隣人(人外の存在)が同時に描かれ、そしてフォーカスは人間に当たっていた。
戦国妖狐では、闇=隣人=おとなりさんにもフォーカスが当たっていて、人生50年の奴と、千年の奴の間にあるギャップが表出している。じゃあそこで、人生を描く作家・水上悟志はどうすんのかって話になってくる。

ま じっくりやろうや おれらの時は永い なんかの答や理由を急いで出すこたない さ のんびり仕事しごと
(『エンジェルお悩み相談所』)

じゃあ、限りある人生でおれらは何したらいい? 敵とわかり合う時間も、夢をかなえる時間も、恋を告げる時間も、そのための力を手に入れる時間もおれら人間には足りない。超常の存在に憧れてもおれらの手はそこに届かない。でも、人間をつれなくフった神さんは言うわけだ。

きみに限界など ない
(『戦国妖狐』4巻)

テキトーなことばっかいいやがってさすが神、とおれらフツーの人間は思うわけだ。一方で、頭のネジが飛んでるキチガイは思う。なるほど、じゃあとりあえず目の前の障害を飛び越えてみっか、と。
で、たぶん誰よりもこの世の限界と向き合ってきただろう狐のたまちゃんは考える。なにを考えたのかは5巻で描かれるのだろうが、とりあえず考えてみることにしたはずだ。今できること、やりたいこと、やりたいことのために必要なこと。
"きみに限界など ない"と神さんは言うけれど、それは「できる」ことを意味しない。10000回中9999回の「きみ」は惨めに失敗する、しかし1回の「きみ」は成功するかもしれない。ならばやんなさいよ、とあの神さんなら言いそうで、戦国妖狐の世界ではそれはとても残酷なことなのだが……

人生なんて恥の連続やで カワイイと思われてるだけええやないか
(『エンジェルお悩み相談所』)

天使ちゃんはこう言ったわけだ。これも大概残酷だが、まあ、死ぬわけやなし。
まあつまり、戦国妖狐を読んだあとは、エンジェルお悩み相談所でバランス取ったらええんちゃうかと。
……あかん、絶版やがな。

戦国妖狐(1) (BLADE COMICS)

戦国妖狐(1) (BLADE COMICS)

戦国妖狐 2 (BLADE COMICS)

戦国妖狐 2 (BLADE COMICS)

戦国妖狐(3) (BLADE COMICS)

戦国妖狐(3) (BLADE COMICS)

戦国妖狐(4) (BLADE COMICS)

戦国妖狐(4) (BLADE COMICS)

散人左道 1 (ヤングキングコミックス)

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惑星のさみだれ 1 (ヤングキングコミックス)

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エンジェルお悩み相談所 (まんがタイムコミックス)

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