『ゼロの使い魔』はちっとも「最近のヌルい萌えラノベ」と呼ぶに相応しくない

王族には二種類ある。一番でかい貴族であるものと、唯一の支配者であるものだ。
概ねファンタジー作品における王族とは後者――唯一絶対の支配者だ。しかし、『ゼロの使い魔』は珍しい、貴族に近い王族イメージを採用している。王族と貴族は魔法使いである点で変わらないし、ルイズとアンリエッタは幼なじみである。
付け加えるなら、貴族のイメージも騎士+地方領主で、すくなくともオタク文化圏のファンタジー作品ではあまり見られないもの。魔法使いではない騎士も存在するからややこしいのだが。
こうした観点からは、いわゆる「ライトノベル」からは遠く離れた『ゼロの使い魔』像が見えてくる。
一般に、異世界召喚モノでは、主人公が召喚されるのは世界(国)を救うためだ。ところが、『ゼロの使い魔』では、主人公はルイズ個人の使い魔=騎士であって、「世界を救う勇者」ではない。こうした構図からは、古典的な冒険小説は生まれてこない。
才人は世界を救う勇者ではないから、才人に報奨を与えられるのもルイズただ一人だ。ヤマグチノボルは「主人公は登場人物のすべての女の子と恋をせねばならない」*1と力強く宣言しているが、どだい無理な話だ。
ルイズと競り合えそうな女の子は、「ルイズを守るために戦う才人」自体を客観視しつつ、そこに魅力を感じられる、タバサくらいしかいない。
したがって、才人とルイズの関係は、「ツルペタツンデレ萌え萌えキュン! ぺろぺろぺろぺろ! うわああああああああん!」というものではあり続けられない。いや、シリーズがこれほど長期化しなければルイズの本性は隠し通せたかもしれない。しかし、次第にルイズは濃厚な牝の性質を明らかにする。
13・14巻は、そうした『ゼロの使い魔』の兇暴な本性が顕になったエピソードであった。そこでルイズが見せる行動、ルイズの身に降りかかる出来事は、ライトノベルの枠を超えている。はっきりいうと、キモい。
だがそこがいい。
ルイズのように、頭の中が壊れたまま、シリーズのヒロインを勤め上げているキャラクターは、寡聞にして知らない。

*1:これは『ゼロの使い魔』10巻あとがき。むしろ、ハーレム路線に限界が見え始めたタイミングといっていいのかも。