世界樹の迷宮の5層は時間がかかりすぎる

 そうそう、これ! こういうことなんです!
 わぱのつれづれ日記 - ゲーム業界の展望を語る『ゲーム評論家』達についてで紹介されていた野安ゆきおというゲームライターのコラムなんですが、当たり前のことが高度に分析されていて実に爽快、膝を打ちます。
 この記事を要約すると

  • 時間当たりの情報量が増加することで、あらゆるメディアに共通する「ハマる」状態が生まれる
  • ゲームはその状態を意図的なコントロールで生み出せるところに特長がある
  • RPGにおいて、ダンジョンがその役目を果たしている

というようなことです。『世界樹の迷宮』の終盤ダンジョンについて、この観点から明快に欠点を指摘できます。

戦闘を繰り返して、スキルを入手していくと、キャラはどんどん強くなっていくんですよ。やり込むプレイヤーにいたっては、開発陣の僕らでも想像できないほどに強化していくハズで。ただ、キャラが強くなるのと同時に敵も強くなっていくと、自分が強くなったことを実感できません。こういった事態は、最近のゲームでは顕著ですね。例えば、クリア直前のダンジョンに入ると、格段に敵が強くなってしまい、攻略することが面倒になったりすることがありますよね? 根性が続かない社会人向けと考えると、そこは工夫して、ゲームが後半になるにつれ難易度をゆるやかに下げてみました。山を登り続ける苦しさだけでなく、頂上についたあと降りながら楽しむさわやかな汗というか…。

買ってきて「よーしやるぞー!」と一番がんばりたい時が一番キツい難易度で、「いやーそろそろ満足したからエンディングが見たいな」という段階に来たら、最初程の苦労なくそこにたどり着けるようになっています。そういう意味では、1階はゲームが始まって「辛いのが楽しい」ところですし、難易度は高めに設定しています。ただ、これはテストケースなので、次回作を作れるのなら、ユーザーの意見を聞いて反映させたいところですね。もしかしたら最後まで苦しい思いをして山を登り続けたいユーザーのほうが多いかも知れないですし、是非聞いて見たいです。

 ディレクター新納氏の発言です。確かに、ダンジョンは後半になるほど難易度は下がってます。悩むところはあんまりない。ただし、時間はかかります。むしろ、極端な強敵や難解なトラップではなく、純粋に広さがブレーキになる形なので、プレイを工夫してかかる時間を縮めることが難しい。よって、非常に間延びした印象になります。
 『世界樹』は5階ごとに層が分かれる構造になっており、各層の入り口付近にワープポイントが設置されているため、それぞれが半ば独立したダンジョンとして機能します。そして、各層ごとに見てみると、確かに下階に行くほどサクサク進めるようにはなってるんですが、1層から5層までをそれぞれ比較してみると、むしろ後半ほどひたすらに長く、時間がかかるようになっている。18階などまさに典型ですね。難易度は低く、情報量は少ない。しかし時間はかかる。先述の時間コントロール理論から言えば、「ダンジョンの後半」としては完全に間違っています。難易度を下げるのはともかく、ダンジョンを狭くするべきだった。
 ここで問題は、そもそも世界樹の迷宮を1つのダンジョンとして捉えるのが正しいのか、そして、Wiz型・ダンジョンRPGの『世界樹』とUltima型・フィールド探索RPGドラクエやFFを同列に語ることができるのかどうかでしょう。Wiz系のゲームを実際にプレイするのは『世界樹』が初めてだったりするので、やや分析に正確を欠くかもしれませんが……。

ドラクエやFFの場合

 1つ1つのダンジョンについていえば、先述の通り、徐々に素早く進めるようになるのが基本です。しかし、ダンジョン同士を比較すると、終盤のダンジョンほど難易度が高く、かつ時間もかかる傾向にあります。
 ゲーム全体の流れを考えたとき、「ハマる」感覚、時間の加速感が必要ないのかといえば、ンなわきゃーない。ではどうするのかといえば、フィールド探索型のRPGでは、ストーリーを加速させることができるわけです。スケールが壮大になり、次々に事件が起こり、キャラクターに重大事が降りかかる。そのストーリーの加速感を以てプレイヤーを「ハマる」状態に持っていき、難解かつ長大なダンジョンに挑ませることができます。
 また、概ねキャラクターの成長も同時に加速していきます。高レベル帯での強力な魔法の習得、最強クラスの装備の取得など。ストーリー上の重要イベントがその役割を負っている場合も多いです。そのため、この手のRPGでは、後半になるほど「いきなり強くなる」感があります。FFⅥの魔石はそういう意味では大変優れたシステムで、強力な魔石を入手すれば高レベルの魔法が一気にキャラクター全員に行き渡ります。サボテンダーの存在に気付けばさらに素早く。

翻って、世界樹

ストーリーの加速

 してるけど、そもそもあってないようなストーリーがいくら展開したところで。

成長の加速

 世界樹のスキルシステムでは、後半の急激な強化は望みにくいです。あんまり高位スキルみたいなのもないし。スキルレベル5とか10とかで突然強くなるというのはあるけど、どうも地味。
 また、最強クラスの装備品は概ねボスクラスのモンスターのレアドロップアイテムから入手する形であり、ゲームの進行に従って自然に入手できるものではありません。後半ほど購入資金が潤沢になるため、条件さえ満たしていれば21階に到達した瞬間にサクっと買えたりはしますが、むしろ装備のためにまた面倒な作業をこなさなきゃならない、という感が強い。宝箱に入れておいたほうがいいんじゃないですかね。

さらに、特有の問題

 このゲームでは後半になるほど頭を悩ませる問題が二つあります。1つは宿代。レベルが上がるにつれて高くなります。収入はさらに増えますが、宿屋の店員は世界樹プレイヤーの宿敵として憎しみを一手に集めているほど。
 もう1つはアイテム欄の圧迫です。イベントアイテムや、安易に使用しづらい高位の消費アイテムの入手によって、後半になるほどアイテム欄のやりくりは逼迫します。そして、倉庫はないしカプラさんもいません。
 これらは単純にプレイヤーの自由を制限して加速感を失わせます。「パーティーメンバーが増えて管理が面倒」といったような、プレイヤーの扱う情報量の増加に伴うものではありません。

結論として

 『世界樹の迷宮』は、「3DダンジョンRPGの快楽」や「ゲームを遊ぶ快楽」に拘泥するあまり、ゲーム本来のシステマチックな快楽の追求が疎かになっているフシがなきにしもあらずです。もちろんドハマりした上で言ってるわけですが、まだまだこんなもんじゃないよ、RPGは。