エロゲーのボイス演出について

http://twitter.g.hatena.ne.jp/hachimasa/20090205/1233865097
 この流れで喋ったことをまとめていこうと思う。

エロゲーにボイス不要論はナンセンス

 ボイス不要論てのが根強くあるわけですが、今後ボイス入り作品は基本的に増加し続けるでしょう。なぜなら、エロゲーはマルチメディアアートであり、BGMという形で聴覚演出がすでに切り離せなくなっているからです。
 聴覚経路を利用する以上、そこで流通する情報量が歴史的に単純増加するのは当然で、そこに人間が出てきてしゃべる以上声が出ないというのは不自然なのですよ。よそでどんなに不具合が出ようとも、「ボイスを入れろ」という圧力は常に消えることなく存在し続けるでしょう。

ボイス演出が抱える問題

 ここでは、基本的に立ち絵+一枚絵で構成されるテキストベースの作品を前提とします。
 ボイス演出が抱える根本的な問題は、その他の要素との時間感覚のズレにあります。これはいわゆるボイス飛ばし問題で、ボイスを聞き終わる前にセリフを読み終わってしまうのでボイスを飛ばしてしまう、という状態がしばしば問題視されます。こういうとなんだかテキストの速度を遅く、ボイスの速度を速くすれば解決しそうに見えますが、そういう話でもないのです。
 ボイスがない状態を考えるなら、ゲームはすべてプレイヤーが画面をクリックするテンポで進行します。時間の流れはプレイヤーにゆだねられている。オートモード搭載はすでに標準となっていますが、それはあくまで副次的に利用されるものです。テキストベースのゲームでオートモードが優先になることはありません。なぜなら、プレイヤーは必ず「すでに表示されている文字を目で追う」からです。文字情報が発信された瞬間にそれを認識することが事実上不可能である以上、プレイヤーが文字を読む速度とオートモードの速度は原理的に一致しません。
 それに対して、音は発された瞬間にプレイヤーに完全に認識されます。ゲームがプレイヤーの任意で進行する以上BGMはループが前提であり、そこに時制はありませんが、セリフのボイスはループしないため、常にリアルタイムに受容されます。ここで、テキストとボイスの時間感覚にズレが生じます。

  • テキスト/ボイス
    • 任意進行/自動進行
    • 可変時間/固定時間
      • 終わるまでかかる時間がプレイヤーにわかる/わからない
    • 目を動かす/耳に入ってくる

 よって、どんな職人芸をもってしても、テキストを読み終わるのとボイスを聞き終わるのが同時という状況は偶然によってしか生まれません。

対策の例

オートモード

 現在ほとんどの商業作品に搭載されている機能です。大本はちんこ握るためにマウスを手放すための機能なんですが、ボイスを全部聞くためにも使えます。ただし、当たり前ながらとっくに読み終わったテキストをイライラしながらながめるハメになったり、たまに読み終わってないのに飛ばされたりします。この欠点を補うために速度を細かく指定できるようにしたりするわけですが、原理的に完全に読む速度に一致することはあり得ません。我慢できる範囲に収まればいいともいえますが。
 この応用として、Age作品などでは、物語上重要なシーンだけ完全自動進行になり、BGMも含めて演出の統一がはかられることもありますが、アニメでやれって話ですね。

テキスト進行後ボイス継続

 クリックした後もボイスが流れ続ける機能ですね。最近ではかなり標準化しつつあります。セリフの次に表示される地の文を読んでいる間にボイスを聞き終わるという状況を作るわけです。比較的簡単でそこそこ効果のある手法ですが、今表示されてるテキストとぜんぜん関係ないボイスが聞こえるのはけっこう気持ち悪いですし、ボイス付きのセリフが連続すると意味ないです。俺はこの機能切ります。

ボイス中テキスト表示オフ

 たまにあります。テキスト切っちゃえばズレようがないよ、という発想。それはそうなんだけど、主人公のセリフとヒロインのセリフで時間感覚がズレるとこまでは解決できません。だんだんボイス飛ばしたくなってくるけど、テキスト表示がないのでどこで飛ばしたらいいのかわからなくなるという。俺はこの機能切ります。

ボイス残り時間表示

 ボイスの進行具合がバーの伸びで表示される機能。『うちの妹のばあい』で見ました。ちょっとカッコワルイけどわりとストレスを軽減してくれる気がします。

映像メディア化

 テキストベースの任意進行を完全放棄。要するに『スクールデイズ』。ある意味ボイス問題に対する完全な回答なんですが、ちゃぶ台返しもいいとこなんで詳説は避けます。
 LittlewitchのFFDもここに含められますが、非常に特殊なシステムなので稿を改めます。

ボイスレス

 悪くないと思うよ、俺は。

テキストとボイスで異なる内容を表現する

 『FOREST』に代表されるライアーソフト作品で採用された演出です。テキストとボイスで同じことを言うからズレが気になるのであって、それぞれ別のことを言えば問題ないじゃんという。非常に面白い回答なのですが、今のところ方法論が確立されておらず、曲芸の域を出ません。

ボイス演出はどこに向かっていくのか?

 今のところ唯一穴のない解法が映像メディア化なので、この方向の作品は今後増えるでしょう。フルアニメやFFDはコストが高すぎるのでメーカーの業態レベルの変化がなければ普及しないでしょうが、フロントウイングタイムリープ』のようなフル3Dゲームについては、イノベーションによってコストが右肩下がりになるので、遅かれ早かれ一般的になるでしょう。
 そのような未来を想定した場合、テキスト+静止画ベースの作品は基本的に不利でしょう。とはいえ、テキストならでは、静止画ならではの表現によってある程度のシェアは保たれるはずです。また、いわゆる「ムービーゲー死ね」問題、ゲームで自動進行をされるとプレイヤーの介入感が損なわれ不快感をもたらすことは映像メディア化の構造上の欠点です。しかし総体的な完成度では任意進行のゲームが劣る、と評価されるようになると考えます。現在のライアーソフト級の、独自の演出手法を確立した作品だけが、売り上げランキングの上位で生き残れるのではないでしょうか。
 純粋にシステム的な解決としては、現在の動画プレイヤー程度のシーク機能を持たせるとかは思いつきますが、どうやって実装すんのかはサッパリですね。

 で、抜きゲーはまた問題の位相が違ってくるので、これも稿を改めます。