平坂読『僕は友達が少ない2』

 シリーズ平坂読第3弾。

 必ず1・2巻セットで買うことをおすすめする。 やっぱこうすればよかったんじゃん。
 夜空と星奈がそれぞれに小鷹に執着している構図が1巻ラストで示されたことで、理科加入編がまっとうにブコメとして機能している。この構成で、夜空・星奈の嫉妬合戦にしない理由は明らかにない。
 理科・マリア・小鳩と、新規加入キャラがみんな小鷹ににとってある種の都合のいい女なので、劇物コンビが仲良く殺し合ってる間にまったりとハーレムを楽しむコメディパターンも成立している。つまり「カラオケ」。あ、幸村居場所ねえな。幸村なんでいるんだろうな。
 こうなってくると1巻ほんとなんだったのと思う。明らかにやるべきことをやっていない。まあ、2巻で成立してる無為な日常+恋愛ドラマメソッドは手垢感があるのだが、こうするしかないんだから最初っからこうするしかない。
 で、形になったのはいいとして、夜空の心理にアヤしい点が出てきた。
 小鷹との友情に執着するのはいいが、現状恋と区別がつかん。星奈と対比される都合上、目指すところが友情であるゆえの独自描写がないと面白くない。好意の量より互いの理解を優先するとか、それなりの特徴が欲しい。
 あと、夜空が実は小鷹とふたりきりで部活したかった解釈――ポスターは本当に誰も気付かないつもりで描いてた説が提示されたわけだが、そして1巻で伏線が皆無だったわけだが、それで星奈に噛みつくのはわかるとして、他の部員に敵対的でない理由がよくわからない。特にわざわざ幸村を騙して入部させた理由が。男だから安全、ということであるならもうまるっきり友情を目的としていないことになる。あだ名を教えないのは、小鷹が友情を忘れているからなのか、それとも今は恋人にしたいからなのか。そもそもどの時点で小鷹の正体に気付いたのか、どこに当てはめてもうまく解釈できない。
 あと、やっぱり星奈のミソジニーの内実というか、男女観がわからない。女が嫌いなら男は好きなのか(下等生物的な意味にしても)、なぜ小鷹は特別なのか、これまで男と女というものをどう感じてきたのかが描かれていない。そのへんは星奈の魅力に直結するんではありゃせんこと? 個人的に非常に引っかかったのは1巻のプール話。星奈ならナンパされたことなんかいくらでもあるだろうに、今までどうやって切り抜けてきたのだろうか。実はレイプ済なのだろうか。学校内では女王様として振る舞える星奈が、外ではこうも脆弱なのは、内弁慶ということで簡単に解釈していいんだろうか。だとすれば星奈のヒキコモリっぷりだとか、「外」に対する新鮮な感動だとか、ちゃんと描いたほうが面白いと思うんだけど。
 こういった心理の綾は、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』では非常に緻密に描かれていて、明示されていなくても深読みができるようになっている。(桐乃については作者と編集の綱引き(2008年下半期ライトノベル界の話題作 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』 伏見つかさ先生インタビュー(前編) - CloseUp NetTube)のせいで分裂気味だけど。)そこで差を感じるな。
 そんな微妙な印象の劇物コンビに対して、理科が完全に機能している。ここにきてようやく「残念」を血肉にしたキャラが出てきたなと。テンプレ変態妄想キャラという点では星奈のテンプレぶりと変わらんけど、上っ面に貼り付けられてるより心底腐りきってるほうが心証は良い。それは端的にメカ×メカ属性持ちという点にあって、そのテンプレを突破したワンポイントがあるかないかでは全然違うよ。綾の扇子のように。
 フォーリンラヴイベントを用意されてるのも理科と星奈で被るのだが、惚れなきゃウソ級のイベントだった星奈に対して、理科の場合イベント自体はきっかけにすぎず、勝手に小鷹に興味を持って勝手に好きになる感が『ラノベ部』っぽくて良い。であるからこそ、隣人部での日常が全て小鷹への興味を深める過程として意味づけられうる。また、小鷹以外別に興味ないからこそ、隣人部の全く無為な活動を、それでもいつの間にか楽しんでしまっているという書き筋が見える。隣人部を一番楽しんでるのは理科でしょ。たぶん。
 また、メカ×メカにしても変温動物フェチにしても、「人間に興味がない」という「友達が少ない」、つまり「残念」にちゃんと繋がってるのが素晴らしい。というか、理科がなめくじの交尾映像を観てトヲンゲムしてるのかと思うと興奮する。それって素敵な感性だと思うの。そういう独自の、というのはキワモノという意味ではなく、自分なりの、感性を、すなわち人格を持っているのが『ラノベ部』キャラの魅力だったわけだし。
 マリア・小鳩もなかなか機能している。まず感動的な他愛なさが率直に可愛い。また、小鳩はリア充の道を歩み始めている小鷹との対比として(小鳩もリア充になったので今後どうするかは注目)、マリアは劇物コンビにボコボコにされる小鷹への癒しとして(お笑い)、また夜空にいじめられる仲間として、小鷹との独自の関係性が成立している。つまりハーレム要員なわけだが、ハーレムが成立すると全体がやっぱり機能するわけで。あれ、1巻でも幸村はハーレム要員だったんじゃないの……?
 幸村。いらねえー。小鷹にストレスしかもたらさない点で劇物コンビと役割が被る。本人が半ばゆるキャラなのは群像劇の『ラノベ部』なら機能したかもしれないが、小鷹固定視点の本作ではアクを弱める効果しかない。みくるちゃんとして見ると、小鷹が素直に好意を持てない男の娘設定がやっぱり余計。こいつのせいで1巻がアメンバー編として読めなくなっているわけで、ひたすらに邪魔。もはやエロ担当になるくらいしか活きる道がなさそうに思われるが、それほど愛されてもいないし、そもそも理科がエロすぎるのでそれも難しい。どうしたもんか。
 あと、ひらがな多めな台詞が、『ラノベ部』ではユルいおつむ表現だったのが、本作では当たりの柔らかさの表現という感じに微妙に変わっており、『ラノベ部』信者としてはやや戸惑う。

 まとめ。理科イチオシ。劇物コンビがんばれ。
 3巻は星奈のアタックが示唆されているが、隣人部ぜんぜん関係なさげなのが悩ましい。というか、もう夜空と星奈は百合百合すればいいんじゃないか。それがみんな幸せな気もする。

僕は友達が少ない 2 (MF文庫J)

僕は友達が少ない 2 (MF文庫J)