『Sugar+Spice!』失ったものは取り返せず、新たに築き上げられる

シナリオ重視エロゲーについてしばしば取り沙汰される概念にトラウマがある。「ヒロインにトラウマがありそれを解消する→セックス」というパターンのシナリオが一時期大流行し、その後も基本のひとつとして長いこと使われているわけだ。
で、ポストFate時代におけるシナリオゲーのひとつの潮流としてトラウマ劇の排除がある、そういう見方が存在する。その是非についてはひとまずここでは述べないが、『Sugar+Spice!』はそういう意味で興味深い作品である。
主人公・和真は記憶喪失者である。5人のヒロインのうち、歌・夢路・藍衣とは過去に痴情のもつれがあったのだが、彼はそれを忘れている(プレイヤーもその時点では知らない)。しかし3人ともつれてる主人公って改めてすごいな。
歌に惚れられていることは忘れる前から気付いていなかった可能性があるが、ともあれ上記の3人は和真の知らない「トラウマ」を抱えている。で、ヒロインとの過去を主人公が忘れているというのは、Keyがよくやる。ただし、Keyの場合、最後まで忘れたままでいることはなく、必ず思い出す。ここは対照的である。対照的であるので、遡及的過去生成とシュガスパを関連して論じることはできなくもないが、あんま面白くないのでやらない。
Key作品とシュガスパにおける、ヒロインのトラウマの内容を比較してみると、和真あんま悪くねえということがわかる。痴情のもつれなので、概ねお互い様である。忘れたことについても、和真の場合交通事故が原因で、しかも歌をかばって事故に遭ったので、全く責任はない。
全く身に覚えがない上、そもそもこっちが一方的に悪いわけでもなく、しかも事故で記憶喪失になったというのに、たまに恨みがましい視線を向けてくる女ども。正直、うぜぇ。そんなことはどうでもいいからとっととヤらせなさいよと。しかし立ちはだかる告白システム。
和真がスパッと記憶を回復すればまあ話は簡単になるのだが、そうはならない。彼が全ての記憶を取り戻すことは基本的にない。じゃあトラウマ解消できない=ヤれないのかといえばさにあらず。失った記憶は新たに積み上げればよく、トラウマは消えなくても乗り越えればよい、というのがシュガスパの回答であった。
このやり口にはどういった利点があったか。「トラウマ解消=セックス」という、なんか変に説得力があるけどよく考えると意味不明な理路を利用していないため、ちゃんと恋愛が描けている。
じゃあそれが新たなスタンダードになるかというと、実際なっていないし、今後もならないだろう。検討すべき点が多い。ポストFate世代の特徴である主人公のトラウマはどこいったのか。カップル成立と関係ないところでトラウマ解消してやんなきゃいけないのはどうなのか。そもそもヒロインのトラウマが必要なのか。クリア報酬としてのエロ、てのは変えないのか。などなどなど。
ただ、主人公・ヒロイン双方にトラウマを与えた上で力強く無視というのは、ちょっとイミフ度が高いが、歴史的にも作品評論的にも面白いと思う。