『俺の妹がこんなに可愛いわけがない5』精読

当然、ネタバレです。解釈の前提となる、筆者の認識を先に書いておきます。

×近親相姦

桐乃が実は京介に恋しているのではないか。そんな誤解が成立するように書かれていることは否定すべくも無い。しかし、妄想としてはともかく、プレーンな読解としては否定しておくのが妥当。京介→桐乃も然り。このあたりは、作者&編集インタビューに詳しい。

また、当然存在する兄妹としての親愛は、お互いを嫌う気持ちを否定するものではなく、同居していると考える。

桐乃=空虚な中心

本シリーズは桐乃を軸としている。見た目としてはラブコメに見える。ラブコメであれば、いずれ成立する主人公とヒロインの関係を軸に作劇が行われる。つまり、ヒロインが実の伴った中心である。しかし本シリーズにおいては、ヒロインが実妹であるため、主人公との恋愛関係は決して成立しない。つまり、「空虚な中心」である。
京介と桐乃の関係は、恋愛という意味では進展しないし、二人が結ばれるエンディングには到達しない。では物語の進展はどこに見られるのかというと、周囲の人間関係に見られる。桐乃のための行動が、桐乃以外の人物との繋がりを生み出し、桐乃以外の女の子から好意を寄せられる結果をもたらす。これが本シリーズの基本的な展開である。
では、その「空虚な中心」がいなくなった5巻はどうなるのか。それをこれから検証してゆく。

第一章

p12:4巻ラスト部分から開始。桐乃留学、黒猫の入学。
p15:黒猫に対しては素直な京介。黒猫が素直でないから……というより、ひねくれているだけなのが見えているからだろう。黒猫を子供扱いしているともいえるし、信頼しているともいえる。相互信頼を結んだ相手ということでは、京介はあやせに対してもかなり素直だ。性的な意味で。
p16:麻奈美、黒猫を認識する。敵意ゼロ。さすがベルフェゴール、余裕しゃくしゃくである。
p19:黒猫の本名判明。この流れは『武装錬金』で斗貴子の名前が判明したエピソードを思い出させる。加奈子の姉説を唱えていた方、残念でした。
方向としては平々凡々に振るか厨二病に振るかの二択であり、望ましいのは前者だっと思う。山田花子にしろとは言わないまでも、「五更瑠璃」はそれなりにカッコいい名前である。残念だった。
p20:女の子の匂いの方が強くなりそうな京介ルーム。でもやってることはサザビーの仮組み。桐乃抜きでも友達なのは間違いないが、桐乃がいたらそもそも京介の部屋には入らないだろう。リビングなり桐乃の部屋で遊ぶから当たり前である。桐乃フィルターの不在、黒猫・沙織との直接交流を印象付ける一幕。
p22:沙織の瑠璃ちゃんいじり。隙があれば基本的にいじりにいく沙織だが、ここでの妙なテンションの高さというかKYな感じには、「お前らもう結婚しちゃえよ」的な心情があったことが読み取れる気もする。また、自分自身より京介・桐乃・黒猫三者の関係を重視している節がある沙織としては、桐乃なき今京介と黒猫の関係こそ最優先事項ともいえる。
p24:やたらモノローグで大好きを連発する京介。まずは黒猫・沙織。4巻で色々あって素直になったというのと、桐乃がいない寂しさで頭がおかしくなっているのだろう。
p26:桐乃欠席裁判。といっても連絡が取れないのだから仕方ない。クライマックスの暗示。
p28:沙織の鉄面皮にヒビが。今までなにがあっても小揺るぎもしなかった演技すら崩してしまう、桐乃の影響の大きさを知らしめる一幕。
それにしても、沙織@お嬢様モードの登場はまだであろうか。
p31:終盤まで、桐乃がいなくて寂しい人たちが延々と描かれる。その最初のパート、現状確認終了メッセージであった。
p35:「千葉の堕天聖」VS「魔王ベルフェゴール」
5巻の大部分をこのカードが占めるのではないかと予想していたが、案外あっさり終了。麻奈美、貫禄勝ち。
同じ高校に入学したという事実が、黒猫の麻奈美ブッ殺すという決意を示したものかと思ったが、どうやら直接対決を避けて別ルートでの攻略を目指しているか、ないしはまだ恋心が前面に出ていないようだ。
p38:黒猫、初「!」。
※『DARKER THAN BLACK〜流星の双子〜』最終第12話は2009/12/24に放送。次回作の予定はたぶん、ない。
p39:黒猫は耳も小さい。
p40:黒猫と麻奈美の対決が避けられた一方、黒猫と桐乃を重ねることで、桐乃の京介への好意が強調されている。問題はそれがどういう意味の好意なのかどうかだが。ところで、桐乃が大好きなのはもう否定しないのだな。本人がいないしな。
p41:黒猫は、京介のために他の女を拒絶しない/黒猫は、独占欲よりも全員の幸せを優先する
どっちとも言えるし、どちらでもあるし、どちらでもないのだろう。
p43:黒猫に格付けを済ませる麻奈美。
p45:アルバイター黒猫。
ところで、公式にグレー扱いとされている黒猫=千夜子説だが*1、黒猫より千夜子のほうが大人だし、千夜子はどう見てもニートだし(まさか退魔行なんかやってるわけでもあるまい)、そもそも黒猫が京介以外の雄にときめいていたなどと想像したくもないので断固として拒否する。
してみると、なんのバイトなんだろうね。
p46:大好き2回目。麻奈美。長年の修練によりテレパスを身に付けた二人であった。
p47:1巻以来で確認する、ツンデレ以前に普通に非コミュである黒猫。
p48:嫁を口説かれて不機嫌な京介。いつもなら絡む赤城がスルーしたのは妹に会いに行くんで上機嫌だったからだろうか。
p51:シスコンの背比べ。
高坂妹が赤城妹より美人なのは事実だろうが、京介が「可愛い」と言っているのは顔ではないので文面は大嘘である。が、赤城が妹を世界一可愛いと言っているのも顔がいいからではないので、つまり、どっちもシスコン。
p54:完全に格付けの済んでいる黒猫・麻奈美であった。
p56:(いろんな意味で)ボッコボコにしてやんよ。しかし、クソゲー臭しかしなかっただろうになぜやりたがったのだろうか。黒猫はクソゲーハンターだったのだろうか。
p57:ひっそりと初登場する“魔眼遣い”。
p59:家で一緒に遊んでいるときは普通なのに、学校ではかたくなな黒猫。ま、単に緊張しているせいというのも、ないとはいえまい。

第二章

p63:黒猫のへそチラとふとももとハブられ。京介が麻奈美とあやせ以外の女の子に性的な視線を向けるのはこれが初めてのはずである。黒猫が身近になったせいだとか、物語上の理由もあるのだろうが、充分人間関係が醸成されたので、もうエロいこと言っても体目当てのバカ男に見えないという作者側の理由も大きい気がする。
p65:沙織の瑠璃ちゃんいじりパート2(with声帯模写)。リアルバレ*2の恐ろしさを思い知らされる。そしていやらしい顔をしていたことを微妙に否定しない京介。
p68:いじられすぎたのか、いじり耐性の高い京介。開き直りすぎである。
ところで、黒猫の「いやらしい目で見ないで」ネタはまあネタなのだが、どういう意味でどの程度マジなのか気になる。たぶん、同じネタでもだんだん意味合いが変わっているはず。
p69:黒猫ぼっち対策会議招集。下心はない、しかし……。本気で嫌がりつつも、嬉しさが混じってしまう黒猫。
p73:黒猫と沙織が京介ルームに入り浸る理由。桐乃不在の間接影響であった。いてもいなくても周囲に影響を及ぼす桐乃。というか、桐乃は「空虚な中心」なので、いないほうが人間関係は動くはずである。
そして鉄面皮のひび割れから覗く沙織の素顔。後々あるだろう長編沙織エピソードは家庭の事情ネタになるだろうと思っていたが、友達関係のトラウマというラインもあるらしい。
p76:はじめての部活見学。「兄さん」に付き添われる様はまるきり妹である……ように見えるのだが。
p79:まさかの痛チャリのお兄さん再登場。誰もが「どこが高校生だ」と思っただろうが、年上ではあるらしい。相変わらずキレたお人である。単にいいキャラだからというのもあるが、今回の活躍により単なるオタクテンプレキャラから抜け出ているのが嬉しい。
p83:コントの複雑な展開を可能たらしめている真壁くんであった。そして、リアル女子への愛を叫ぶ京介。
p90:ゲー研への思い入れを語る部長。キャラを立てる基本的な手筋、的確にこなしている。
p91:徐々に超人性が明らかになってゆく黒猫。高校1年生。これで大成できないとなると現実のワナビが悲しすぎる。まあ、スキルではなくセンスの問題なのだが。
p92:「次におまえは『喜ばないで頂戴』と言う」
p93:こっちはこっちで他力本願が堂に入っている京介。経験から身に付いた、筋の通った考え方があるためであろう。
p94:瑠璃ちゃんは彼女に見えるらしい。ふーん。まあ、兄同伴で部活見学に来る妹ってのもなかなか想定しづらい生物ではある。自信と取り繕いと無関心が微妙に同居する京介の反応。そして、ようやく名前が出てきた新キャラの赤城さん。
p98:千夜子って掃除しないよねえ? まあ、その話はもういいか。ちょっと腹に据えかねたのだった。
p102:黒猫、京介に三行半。京介の過剰なお節介の舞台が学校になったのは、桐乃の不在と同時期に始まった新しい関係だからだろう。
黒猫の怒りの原因。誰かの代償にされていること。その相手が桐乃であること。妹扱いされていること。大事な「妹」として求められていることは必ずしも不愉快なだけではないのかもしれない。こうした深読みしたくなる台詞が『俺妹』には、特に黒猫には実に多い。
p103:新歓会の日。黒猫を桐乃の身代わりにしていたことを反省する京介。反省はしても引かぬ媚びぬ省みぬのが熱い。
p105:説得する前に新歓会に向かう黒猫。腹に据えかねるものはあっても嬉しくなくはないのと、友達も欲しくなくはないのと、単に京介に甘いのだろう。そして、動揺して黒猫リーディング能力が低下している京介。
p106:会場到着。女の子の言葉には常に裏がある。この法則が沙織にも適用されるのはいつのことだろうか。
p107:微妙に甘える黒猫。ナチュラルに甘えさせる京介。こういった関係を黒猫はどう捉えているのだろうか。
p108:赤城瀬菜ちゃん(巨乳)ついに遭遇。図らずも両手に花となる京介。
p110:パーティーが苦手なのに懲りずに出席する黒猫。傷付いても立ち上がるド根性。この辺り、桐乃と似ていて、沙織・瀬菜とは対照的。貧乳は不屈の闘志の表れなのだろうか。
p111:京介、瀬菜ちゃん攻略開始。相手の情報を聞き出しつつフラグを立てる。手慣れすぎだ。
p117:唐突に黒猫に喧嘩を売り始める瀬菜ちゃん。委員長VS問題児の局面で、委員長の目的が相手の排除ではなく更正であることはお約束なのだが、それを口に出させてしまうあたり『俺妹』らしい。たぶん、好き嫌いが分かれるだろう。
p119:空気を読んで仲裁に入る真壁くんと、黒猫のぼっちエピソードを容赦なく開陳する瀬菜ちゃん。この時点で瀬菜は全員を敵に回している。非コミュはお互い様じゃないのか。
p121:強制中断を入れる部長。年の功というべきか、同じ道化型リーダーでも沙織より格が上である。真壁くんという優秀なサブリーダーがいるためもあるだろう。
p122:通り名を持つ黒猫。創作の分野で、二つ名が貰えるといいね。
p123:攻略不成立のお知らせ。そしてやたらとおっぱいに注目する京介。完全に自重という言葉を忘れている。
p125:京介、2本のフラグを回収にかかる。結果、爆発。
p130:黒猫、追い打ち。結果、大爆発。
p134:真壁くん、レイプ目。
p136:京介、貫禄の他力本願。というか尻拭いを押しつける。
p137:兄としての敗北感を覚える京介。でもこんな妹はイヤだろうよ。
p138:本当にこいつでよかったんだろうか……というのはもちろんこいつでよかったフラグではあるわけだが。友達は慎重に選びましょう。
p139:祭り終わってしっとりトーク。人間、自分が追い詰められていることに気付くのは致命的な失敗を犯した後である。例えば、後輩のために選んだ友達が恐るべき変態であった場合など。
p141:これまで京介は常に桐乃のために行動してきた。それがむしろ桐乃以外の人に影響を与え、好意を抱かれることになっていた。しかし、今回京介は、初めて黒猫のために行動する。桐乃の身代わり扱いの後は、桐乃扱いである。それは親愛なのか、恋愛に結び付くものなのか。黒猫の心情は極めて複雑となる。
p142:かつての黒猫が「兄としての京介」に好意を抱いていた――少なくともそういう面があったことは間違いない。それが恋に変わり始めたのは、やはり持ち込みの一件がきっかけであろう。

第三章

p146:部長、問題児&変態コンビに共同制作を命じる。当然首を突っ込む京介。“魔眼遣い”は黒猫のパートナーに違いないという読みが当たったので得意になった。
p147:本屋で下心を丸出しにする京介、変態と遭遇。懲りずに変態に性的な視線を向ける。キワモノ耐性が上がりすぎているらしい。顔や体がよければなんでもいいのだろうか。
p154:変態の腐女子講義。取材の成果が見て取れる。
p158:京介、変態攻略を再開。金額の単位が8800円になったり、リアルの出来事をゲームになぞらえて取り組むようになったらもう後戻りできないオタクである。
p162:×沙織 ○瀬菜
p164:まるで恋する乙女のような京介。そこで男のしみじみとしたみっともなさが出ているのが良い。
p165:痛チャリの兄ちゃんに続き、まさかのフェイトちゃん(妙齢)再登場わっほい。鬼の居ぬ間の総決算、京介が築き上げてきた人脈(通称:高坂勢力)の確認を行っている5巻らしい一幕。
p166:フェイトちゃん、厨二病再発。そりゃあ、伊織・フェイト・刹那(本名)の小中学校生活はさぞストレスに満ちたものだったであろう。
ちなみに、僕っ娘は男性性を強調する。ユニセックス的というより、トランスセクシャル的な一人称である。つまり、女児によく見られる精神的性的未分化ではなく、ペルソナを演じる心理を表している。厨二病の表現として適切である。
p167:ワナビの悲しすぎる現実。動悸が変になるからマジでやめてほしい。
p169:もはや見境なしの京介猿。メガネフェチアピールはもういい。
p170:居場所を見付けたフェイトちゃん。社会に適合するということはペルソナを使い分けるということでもある。小説家になりたいフェイトは、編集者というペルソナをかぶることで理想と現実に折り合いをつけた。編集者に扮した『妹空』の一件のみならず、思春期に理想の自分を演じた経験がそこで活きたと解釈すると実に面白い。人生なにが役に立つかわからないものである。
p171:気付いたら年上の人生相談を行っていた京介。ようやく自分の相談事に。習慣恐るべし。
p173:ダメ人間の精一杯のアドバイスを著しく曲解する京介。久々に妹の話をして頭がおかしくなったのであろうか。ちなみに、18歳未満の作者が18禁のフィクションを制作することは、一応法には触れない。16歳の官能小説家が商業デビューした事例もある*3
p176:あやせに続いて年下の少女に変態呼ばわりされる京介。クセにならないか心配だ。しかし、京介がセクハラする相手は、ヤンデレだったり変態だったり、精神的に問題のある人物ばかりである。致命的な事態に至らないことを祈る。
p177:黒猫、百合エロ経験アリ。ええええ、と思ったが、よく確認してみたら3巻p49で“夜魔の女王”×桐乃情報があった。設定だけじゃなくエロシーンもあったのか。愛が、重い。桐乃は殺しただけだったのに。
p178:エロ同人脳の黒猫。そんな肉棒的な本も読むのだろうか。まあ、実はすっごくテンパっていたのだろう。
p179:京介は元々お人好しだが、怠惰でもあった。積極的に持てる優しさを行使するようになったのは、もちろん桐乃がきっかけである。当初黒猫を桐乃に見立てて接したのは、妹に対してする以外に、優しさの使い方を知らなかったためでもあるかもしれない。単に心根を改めたというだけでなく、京介の成長はそういった見方もできる。
人にありがとう、麻奈美にありがとう。頑張れ俺。そんなひっそりと健全な『俺妹』。でも性的な意味では不健全。
p181:黒猫、ぼっち飯。京介の態度に怒る気持ちはわかるが、さすがにこれをフォローしないのは精神衛生によくない。が、裏表紙のイラストはあまりに可愛いので、「このままながめてるのもいいか」という選択肢もアリかもしれない。
p182:衝撃のメルル弁当。愛が、重い。
黒猫も寂しさで頭がおかしくなっているのだろう。そう信じたい。真面目な話、解釈に困った。
p184:実は黒猫に嫉妬していたらしい麻奈美。魔王様に嫉妬されても黒猫は納得いかんだろう。そして好意を口に出すことにためらいゼロの京介。話をまとめると、あやせがメガネをかけたら最強らしい。
p186:プレゼン当日。真壁くん×部長。変態にエサを与えるな。
p188:変態のプレゼン開始。デブ2名がいつの間にか調教済になっている。そんな描写なかったよね。その他、地雷的伏線の埋設と、ちょっとグッとくるRPG論と、優秀な質問者の黒猫と、エロ京介。
p193:黒猫のプレゼン開始。性欲を封印してフォローに徹する京介。しかし、6kb/hはちょっとすごいぞ。実際、絵にしろ文章にしろ、女性は平均的に手が早いような気はする。
p198:黒猫の超凄いオナニー。または、ワナビの生きる道。フェイトちゃんは逆の道を選び、そして編集者という在り方に行き着いたのだろう。でも、黒猫は桐乃に勝たなければならないので、オナニーしか選べない。結局はバランスとオナニーのバランスも必要そうだが。覚悟が必要なのは間違いない。凡人ならば。
p202:変態、撃沈。敗因は、変態だからだった。
p205:変態VS変態。おかしいな、こんな作品だったっけこのシリーズ……。
p208:変態、爆沈。常に二段構えで落とされる瀬菜、実はいなかった明確なコメディリリーフとして今後の活躍が期待される。
p210:黒猫、アウェイで二人っきり。色を知る歳。なのだが、まだまだ子供っぽさが抜けないらしい。キャラクターがぶれているわけではなく、移ろうお年頃なのだろう。京介のために「妹」を演じている節もあり。恋愛のレベルは一方だけでは決まらない。
まあ、可愛いからどうでもいいんだけど。
p217:黒猫、奥ゆかしい愛のことば。こういうところがたまらん。残念ながら、京介はそれを噛み砕けるほど老成していないので、もっとストレートに迫らないと効果がないのだが。
p219:お互い、純粋な好意と下心が同居する関係。
p220:文字通りに解釈しても問題ないのだが、京介が自分を女として見ていることに満足したので、桐乃が帰ってくるまで慰めてやろうという意味にも取れる。黒猫の女力の高さが異常。
p221:麻奈美との微妙な齟齬。謎。そして沙織のはぐれメタル化。意味があるのかないのか。
p223:持っていかないではキラーワード。こんな具合に、効果的に使いましょう。
p225:黒猫、京介スイッチオン。エンターテインメント作品において、「成長」は極めて重要な要素で、当邦においては必要欠くべからざるものといっても過言ではない。そして、「成長」は、主人公が周囲の影響を受ける場合と、周囲が主人公の影響を受ける場合に分かれる。これは後者の事例。
p228:「千葉の堕天聖」としての黒猫のキャラクターは、本人にとってどういう意味を持つのだろうか。
エンコード」という概念を適用してみる。黒猫の言動は、あるルールに基づいてエンコードされたものである。2chなどのネット上のコミュニティにおいては、エンコードされたメッセージがそのまま流通し、それでコミュニケーションが成り立っている例がしばしば見られる。
が、黒猫が現実でエンコードされたメッセージを発するのは、相手に受け取られないことを前提とした、拒絶の態度だといえる。
しかしそれは、全てがノイズではなく、本音もまた含まれている。彼女が「痛い言動」をまき散らしつつも、学校に通い、オフ会に出、パーティーに姿を現すことが、それ自体メッセージであるように。だから、気心の知れた友人に対するときや、どうしても伝えなければならないことがあるときは、厨二病に擬態して本音を投げかけることもある。独り言のように。祈るように。フェイトちゃんとも共通する、厨二病コミュニケーションである。
京介は、不完全ではあれデコーダを備えていて、黒猫に興味を持っているから、エンコードしたメッセージでも受け止めてくれる。しかし、瀬菜はそうではない。だから、黒猫は初めて本音を本音のまま伝える必要があった。
しかし、黒猫の貧弱なコミュニケーション能力は早晩限界を露呈し、彼女はエンコードの煙幕の中に戻ってしまう。幸運だったことは、瀬菜が黒猫に似たバックボーンを持っており、エンコードされた本音の存在に気付いたこと。この瞬間、瀬菜は黒猫が平素振りまく「痛い言動」にも隠されたメッセージがあることを理解したに違いない。
p234:報われる京介。誠心、黒猫を救うために行動していたことが証明された瞬間でもある。しかし、自分が必要なかったというのは卑屈にすぎるだろう。京介たちとのコミュニケーション成功体験がなく、またいざというときの京介の行動力を目にしていなければ、黒猫がここで勇気を振り絞れたかは怪しいものである。そもそもゲー研に参加すらしていなかっただろう。
p234:一気呵成。
p237:しつこくおっぱいおっぱい。そしてついに明かされる“魔眼”の正体。こんやはこんなにも つきが、きれい――――だ―――――
p238:二つ名ゲットおめ。松戸ブラックキャット&魔眼遣いコンビ誕生の瞬間であった。ブラックキャットさんにももうちょい厨二病的な二つ名がほしいなあ。
p238:凡人の悲哀。というか悲鳴。ええと、いつもDISばっかしててごめんなさい。でもクソゲー掴まされるのもそれはそれで悲痛なんだぜ。最後まで全力全開な瀬菜ちゃんが可愛かった。

第四章

p244:ちょっとしたエピローグ。お疲れ様、きょうちゃん。しかし、真のクライマックスはこの後に待っているのだ。
p247:爆弾投下。やっぱり桐乃がいなくちゃ締まらない。
p250:ラブリーマイエンジェルあやせたん。やっぱり妹のこととなると頭がおかしくなっちゃうお兄ちゃんであった。
p251:激しいテンションの乱高下。京介はあやせが好きすぎる。そして高坂勢力の確認。京介を通さない繋がりというのが重要。
p253:変態とヤンデレの会話。ダメだこいつら早くなんとかしないと。
p257:黒猫、もう決めるつもりだったのだろうか。決戦が不運にも流れてしまうのは、報われないポジションの証明。やめて、黒猫ルート閉じないで。
p258:発破をかける黒猫。黒猫の女力の高さが異常。
p259:黒猫、エンコードしないメッセージ。どれだけの勇気が必要なことだろうか。家族を除けば、人生で2回目くらいじゃないのだろうか。そんな一世一代を親友のために使ってしまう黒猫。そして、瀬菜を相手に本音で話せたのは、やっぱり京介の姿を見ていたからだというのが、逆説的に読み取れる。お互いに好影響を与える、素晴らしく健全な関係。
p261:ひねくれ者ふたり。京介がキョンの影響下にあるキャラクターであることは言を待たない。つまり、必ずしも信用できない主人公である。しかし、京介の場合、嘘つきというより、感情が多面的なのだ。桐乃を好きであり、同時に嫌いでもあるように。他意があるのはお互い様である。
p262:ここで勝負かけてれば落とせたのにいいいいいいいいい! もったいない!
p264:黒猫の女力の高さが本当に異常。そして、ついに我慢しきれなくなって仮面をかぶってしまう黒猫。あああああああもうちょっとだったのに! でも、これがたまらないんだけど。どうやったらこういう可愛らしく奥ゆかしい台詞を思い付くのだろうか。
p265:娘のこととなると頭がおかしくなる親父であった。愛され系な桐乃。
p268:あっさり再会。桐乃は5巻で帰ってくるに決まっているとは思っていたが、まさか京介がアメリカに飛ぶとは。でも、考えてみたらそれしかない。
p272:特効薬が胃薬しょってやってきた。
p274:黒猫は意識するけど、桐乃はしない。性的な意味で。この切り分けは厳密であり、いかにシスコンであれ、ここが崩れたらもはや『俺妹』ではない。
p276:デレない妹を取るか、ヤンデレを取るか。究極の二択。単に自分を忘れてほしくなかったと解釈すべきだが、そこで勘違いさせにくるのがいつもの手管である。勘違いするのも、お兄ちゃんの権利。
p278:胃薬が効いてきたので、本格的に治療開始。こうしてみると、エロゲーってなメンヘルそのものである。
p282:本題。桐乃の病気。あるいは、本格的エロゲー批評。ヒロインを救いたいという気持ちは、そこに何かを投影して自分を救いたいだけではないのか? いわゆる、レイプファンタジー論。京介は言う。心配なのだと。一緒にいてほしいのだと。俺が寂しいのだと。お前が好きなのだと。愛である。
p292:攻略完了。しかし、桐乃は実妹なので、エンディングにはならないのだった。
桐乃は「空虚な中心」であり、実妹であるゆえに攻略は決して完遂しない。そこで周囲に効果が波及するのが本作の書き筋であったが、今回は逆に黒猫の流れを止めてしまった。黒猫が桐乃ポジションだったわけである。
普通に考えたら、決して落ちない桐乃が不在であれば周囲の女の子との関係は進展するはずである。実際それはそうだったのだが、むしろ「空虚な中心」を脱しサイドに流れた桐乃との関係が進展してしまった。恐らく、作者が『俺妹』モードに入っていて、桐乃ポジションありきの作劇をしてしまったのだと思う。黒猫はかわいそうだったが、ファンとしては概ね歓迎すべきだろう。
p292:成田なう。対桐乃装備なう。再会なう。うれしいなう。
p295:補足。ゴスロリがというより、制服が対京介装備という話でした。懐かしい光景と、ドーピングについて。真の実力とは言いかねるが、違反には当たるまい。桐乃14歳、黒猫15歳(いずれも推定)、まだまだ未熟な二人であった。己の足らざるを知り、その上でなにを成すか。『俺妹』の重要な書き筋。
p298:おかえり、桐乃。でも、沙織不在。いい加減、次は沙織にスポットが当たるかな? ちなみに、読み終わってみると、表紙絵がただいまポーズに見えなくもなかった。
以上、終了。

総括

桐乃がいなくても『俺妹』は『俺妹』でした。4巻で長期化に伴う変質の危惧が最大に高まっていたが、それはほぼ払拭された。あとやらなきゃいけないのはラストエピソードを除けば沙織編くらいなので、6巻のコメディ寄せは歓迎。