『ハートキャッチプリキュア!』=『ふたりでフォルテッシモ!』〜必殺技にみる新しいコンビ概念〜

まだまだいくよー。さて、『ハートキャッチ』の必殺技についてです。
本編にはまだ必殺技が出ていませんが、OP映像に入っていましたね。

ここで注目すべきは、一人当たり「f(フォルテ)」一つしか出ていないことですね。
アバンで「プリキュア・フローラルパワー・フォルテッシモ」「プリキュア・ダークパワー・フォルテッシモ」という必殺技がすでに登場していますが、当然これは単独で発動しています。恐らく、ムーンライトの力をブロッサム・マリンが分割して受け継ぐため、単独では「ff(フォルテッシモ)」が出せないのでしょう。だからスカートも短くなったのかも。
傍証としては、3人の色構成があります。イメージカラーが、ブロッサム=桃色、マリン=水色、ムーンライト=藤色(淡く青味の紫色)。なのでブロッサムとマリンの色を混ぜるとムーンライトに近くなるわけですね。
では、そういう設定だとして、どう評価すべきでしょうか。

「合体技」に意味付けを

『ハートキャッチ』はSplash Star以来、実に3年ぶりの二人プリキュアです。初代〜Splash Starまでの「ふたりはプリキュア」シリーズは、全て、二人で手を繋がなければ変身および必殺技発動が不可能な設定になっていました。しかし、これに特に裏付けはなかったわけです。「そういうことになっている」というだけの設定でした。
そういうところが独特のけれん味になって人気を博した面もあると思うんですが、一般的にはちゃんと意味があった方がいいでしょう。力を分割したためというのは、じゃっかん中二病くさいけれども面白い設定です。実際、中二だしね。
ちなみに、第1話でブロッサムのみ変身しているので、変身は一人でできるようですね。
「ふたりは」シリーズの「二人揃っていないと変身できない」設定は、合流できずピンチになるという作劇を可能にしている一方、個人戦ができないという制約ともなっていたんですね。5以降の作品では「ピンチを仲間の助けで切り抜ける」というスーパー戦隊的な作劇が可能になっていて、これはこれで有効だしぼくはそっちのが好きです。『ハートキャッチ』の設定は両者のいいとこ取りをしたものとして受け止めています。

「弱いプリキュア」概念の発展

初代〜フレッシュまでのシリーズの流れ

プリキュアシリーズのテーマとして、「等身大の少女」を描こう、というものがあります。とはいえ、一口に等身大といってもその意味合いは変化しています。
共通しているのは、少女の身近な問題を描こうとする態度ですね。*主題歌
これは、プリキュアが「格闘」する理由でもあります。
初代〜Splash Starについては、等身大であることは、基本的に「強さ」として表現されています。しがらみに縛られる大人には持てない真っ直ぐさが、苦しい戦いを乗り越える力として描かれているといえるでしょう。
つまり、初代プリキュアであるなぎさ・ほのかは、当然思春期らしい悩みを抱えているとはいえ、強い女の子だったわけです。それゆえ能力的にも優れていたし、周囲から憧れられる存在でした。なぎさは運動神経抜群だし、ほのかは成績優秀だったわけです。それに対し、Splash Starでは、咲は特別に優れた選手ではなく、舞は画才こそあれ特別成績優秀ではないし、人間関係に不器用な面が強調されていました。
Splash Starからの流れを継承し、5の主人公・のぞみは成績劣等・運動神経ゼロ・目標ナシのダメ少女になっています。その分根性が据わっていてリーダーシップを発揮したわけですが、ここではスーパーガールから成長株へと「等身大」の意味が変わっていることが見て取れます。
さらに、Splash Starではプリキュアの関係者・家族や住む町がより積極的に描かれ、5では仲間の助け合いや年長者の導きが強調されていたこと、GoGoではさらに先輩に導かれる後輩プリキュアミルキィローズが登場していることも見逃せません。
フレッシュの主人公・ラブは、基本的にのぞみを継承しており、特別劣等でもないものの、秀でた能力は持たない少女です。さらに、仲間に対してリーダーシップを発揮する場面もあまりありません。つまり、導かれ周囲に支えられる「弱いプリキュア」の方向に進もうとしている――ように見えたのはオールスターズDXだけで、本編では特にテーマには昇華しなかったわけですが。

『ハートキャッチ』で「弱いプリキュア」概念が確立

「ff(フォルテッシモ)」は「とても強く」という音楽記号です。念のため。つまり、一人ではフォルテッシモが撃てないというのは、単に合体技の設定であるだけでなく、「一人では弱いけれども、二人ならもっと強くなれる」コンセプトを裏打ちしていると考えられます。
さらに、最初から先輩プリキュアが登場しているわけで、これは5GoGoからの路線継承と見るべきでしょう。
二人とも特技というほどのものはなさそうですし、つぼみは引っ込み思案、えりかはヒステリー気味と、性格的な欠点も明確ですしね。もちろん、そこからの成長が今後描かれることでしょう。
『ハートキャッチ』の明らかに従来より幼げなキャラクターデザインは、東映としての『おジャ魔女どれみ』路線の合流ではもちろんあるわけですが、こうしたコンセプト的な意味合いもありそうです。
そして、第1話が「私、変わります!変わってみせます!!」、第2話が「私って史上最弱のプリキュアですか??」なわけです。完全に狙ってやってますね。序盤でこれほどテーマが確立していた作品はプリキュアシリーズでは類を見ないといえます。

光と闇の対立が復活。厨二病最高!

そろそろ妄想と区別がつかない話になってきますが、せっかくなので書いておきましょう。

マリン/ブロッサム=陰/陽

ブロッサムとマリンがムーンライトの力を分割して受け継ぐとすると、「ムーンライト」というシンボルが非常に面白く思えてきます。
「ムーンライト」は、夜と光の属性であるからして、陰のものとも陽のものともつかないわけです。これを分割して受け継ぐとなると、初代様ことキュアブラックキュアホワイトの二項対立が連想されます。初代へのオマージュと考えてみると面白い。
また、つぼみ・えりかは必ずしも対等ではなく、えりかがつぼみに寄りかかることになりそう……というのはOP編で述べました。二人の体格差についてしつこく言及しているのはそのためです。5以外では、体格差はほとんどありませんでしたね。
ブラック・ホワイトの関係においてはその属性はさほど意味を持ちませんでしたが、ブロッサム・マリンの関係ではマリンが「陰」として性格付けされる可能性があります。
傍証としては、ムーンライトの必殺技が「花のパワー」を用いたものだということが挙げられます。主題歌の歌詞も花まみれです。ムーンライトの正統後継者はブロッサムで、マリンはオマケというか、神様に対するピッコロ大魔王のような存在かもしれません。もちろん、第1話でえりかがさっそく被害者となり、コンプレックスをむき出しにされたこともそれを裏付けます。
初代では光と闇の対立が設定の根幹だったので、光の使者のくせにキュアブラックってなんだよ……という話で、実際黒い意味は全然なかったんですが、『ハートキャッチ』では話が違ってくるかもしれません。今回の敵勢力は「砂漠の使徒」であって、今のところ「闇」とは関係ありません。
ところで、アバンタイトルのムーンライトは花鳥風月を一人でカバーしている感じがしますね。メイン属性が月、攻撃属性が花、衣装が鳥で、風はあんまり明確じゃないけど映像的に微風で舞う花びらが印象的。Splash Starまで取り込んじゃいますか。

光と闇のプリキュア

陰陽の対立といえば、もちろんダークプリキュアの存在をおいて語ることはできませんね。
ダークプリキュア」という名前は『ハートキャッチ』が初出ではなく、映画プリキュア5に登場しています。いずれも長峰達也監督です。
映画プリキュア5ダークプリキュアは、プリキュアのコピーに闇(シャドウ=影)の力を加えられた存在でした。ムーンライトとダークの関係は果たしてどうなんでしょうね。OPでのムーンライト・ダークの登場順の意味合いが気になります。
ところで、第1話アバンタイトルでのムーンライトとダークの対決をみて、ふと思い出したのが仮面ライダーBLACKとシャドームーンの関係でした。おや、ダークと、ムーンライトですか。ニヤニヤしますね。
『ハートキャッチ』に特撮の影響が見られるというのはOP編で述べたとおりですが、スタッフ的にもBLACKと直接の関係がありまして、シリーズ構成の山田隆司がBLACK・RXの脚本を何本か担当しています。実にニヤニヤですね。

まとめ

  • ブロッサムとマリンは半人前
  • シリーズの流れを継承して「弱いプリキュア」像を確立している
  • えりかはつぼみよりさらに弱い子っぽい
  • えりかちゃんカワイイ!
  • 対等でないコンビという新しい概念
  • つぼみ×えりか萌え!
  • マリンは闇属性かも
  • ムーンライトとダークの関係が気になる
  • 仮面ライダーBLACKの影響があるかも